2016年3月17日木曜日

ハーグ条約の目的について

 ハーグ国際私法会議は、すべての締約国の裁判所は、本条約がどのように解釈、適用されるか知りたければ、必ず条約の目的を参照し、評価しなければならない、としています。http://www.incadat.com/index.cfm?act=analysis.show&sl=3&lng=1

  上記サイトは、本条約は子、残された親、連れ去り親の相反する利益の微妙なバランスを達成するために、明示・黙示に本条約の目的が条文の中に取り入れられているとしています。そのため、本条約は残された親のための子の迅速な返還を定めた条約であるといった説明や、本条約では迅速な返還を目的とするもので子の利益は考慮されていない、といった説明は、本条約の正確な理解ではありません。

 本条約1条は本条約の目的を示しており、それによれば、
  a) いずれかの締約国に不法に連れ去られ、または不法に留置されている子の迅速な返還の確保
  b)1の締約国の法令に基づく監護の権利および接触の権利が他の締約国において効果的に尊重されることを確保

 とされています。

  そして迅速な返還および接触の権利の保護の確保をする目的については、本条約の序文に以下のように記述されています。

 「子の監護に関する事項において、子の利益が最も重要であることを深く確信し」
 「不法な連れ去りまたは留置によって生ずる有害な影響から子を国際的に保護すること並びに子が常居所を有する国への子の迅速な返還を確保する手続きおよび接触の権利の保護を確保する」

 繰り返しになりますが、本条約の序文には、明確に「子の利益」は最も重要な要素と明記されており、子の利益は本条約では考慮する必要がないといった主張は誤りです。

 本条約13条は、子の利益を保護する目的を具体化したものであり、返還の例外として

  返還によって子が心身に害悪を受け、または耐え難い状態に置かれることになる重大な危険がある場合、
  意見を考慮されることが適当な年齢および成熟度に達している子が返還されることを拒んでいる場合

 を挙げています。

 なお、子が意見を述べる権利および、子の意見が考慮されるべきことについては、
国連の児童の権利条約12条にも以下のように規定されています。

1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。 

 子は単なる返還の対象ではなく、権利の主体であり、その権利として意見を述べることができ、その意見は考慮されなければなりません。

 米国の裁判官のためのガイドラインでは、条約の目的について、以下のように記述されています。

 条約は(1)国際的な子の連れ去りを防止し、(2)連れ去られた子の返還のために迅速な救済を提供する。条約の目的は、子の「従前の状態」に戻し、親に監護の請求により有利な法廷地を求めて国境を越えないようにすることである。
 条約は統一子の監護の管轄および執行法(UCCJEA)のような管轄を定める法ではない。条約の目的は外国または国内の子の監護の決定手続きを始め、修正し、または執行することを含むものではない。


 以上より、本条約の解釈においては、本条約が子、残された親、連れ去った親のそれぞれの利益のバランスを図ろうとしていること、および、条約において子の利益が最も重要なこととされていること、子は返還の対象として扱われるべきではなく、その意見は考慮されなければならないこと、を理解したうえで、子を迅速に返還することで子の国際的な連れ去りを防止し、子を従前の環境に速やかに戻し、子の監護に関して有利な法廷地を求めて国境を越えることを予防する目的を達成しようとしなければならない、ということになります。

 なお、当然のことですが、本条約は、監護の管轄を決定する条約ではなく、返還決定には、返還先の国に監護に関する管轄を生じさせる効力はありません。子の監護に関する裁判管轄の有無は、それぞれの国の子の監護に関する(国際)裁判管轄の規定に従って決定されることになります。

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