国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)は、1980年10月に締結された条約で、2015年8月には93か国が締約国となっているとされています。
日本では、2014年4月に条約が発効しましたが、条約の国内での実施のために、条約とは別に条約の実施法が制定されています。そこで、日本では、条約と条約の実施法の関係が問題となります。
実施法と条約の関係は、形式的には、憲法98条により、条約と法律では、条約が上位の法であるとされていますので、条約と実施法が矛盾・抵触する場合には、条約が優先することになります。
実質的にも、実施法の目的は、条約の「的確な実施を確保するため」(1条)、とされていますので、実施法の解釈においては、条約と矛盾・抵触しないようになされる必要があります。
つまり、条約を正しく解釈適用しようとすれば、実施法だけを見ていればよいのではなく、条約の解釈とその運用を知る必要があります。
日本ではハーグ条約は2014年の発効ですが、この条約は1980年の条約であり、日本より先に締約国となった国々で、長年にわたり、裁判例が積み重ねられています。他の締約国でこの条約がどのように解釈、適用されているかを無視して、独自の解釈・適用をすれば、多くの国が締約国となっている条約の締約国となった意味が薄れます。
米国の裁判官のためのハーグ条約のガイドラインにおいても、裁判所は外国の先例に適切な考慮を払わなければならないことは明らか、とされています(Garbolino Hague Guide xii)。
ハーグ国際私法会議のサイトが、締約国の裁判例とその分析結果を公開していますので http://www.incadat.com 、他の締約国でどのような議論がなされ、どのような解釈・運用がなされているかを知ることができます。
また、米国の裁判官のための条約解釈のガイドライン(The 1980 Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction: A Guide for Judges)や、ペレスベラ報告書 https://www.hcch.net/en/publications-and-studies/details4/?pid=2779 、日本語の資料だと外務省の委託により日弁連がまとめた報告書 http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000060318.pdf などが参考になります。
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